最高難易度の大学入試をロボットがクリアする方法

国立情報学研究所教授であり、「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトのディレクターでもある新井紀子さんの問題提起が日経産業新聞紙上に掲載されています(日経産業新聞2016年8月4日付)。
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO05615580T00C16A8X12000/

 


写真/日本経済新聞社

 

記事を要約すると、

 

新井さんは、ある市の教育委員会に協力してもらい、果たして中学生は教科書の文章を正確に読めるのかどうかを調べたそうです。

 

出された問題のひとつはこのようなものでした。

 

例文:「仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアにおもに広がっている」

 

設問:オセアニアに広がっているのは何か。仏教、キリスト教、イスラム教、ヒンドゥ教の4つのうちから選ぶとしたら、正解はなんだろう。

 

その回答結果に新井さんは驚愕します。

 

正解したのは54%。35%が仏教、12%がイスラム教と答えた。学年が違っても正答率にそれほど変化はない。

 

なぜだろう。読書量不足?塾に行く経済的余裕がないせい?

 

あらかじめ普段の読書週間や塾通いの有無は調べてあったが、それとの相関は見られない。

 

その後、この調査をした市にほど近い中間一貫校(県立)で同様の調査をしたところ、全体の約95%が正しく答えを導き出したのです。

 

この結果の違いは、入試をして中学に入ったかどうかの違いだけだ、と新井さんは結論づけます。

 

基本的な読解力が身についていれば、教科書や参考書を読みこなす能力も自然に身につき、結果成績が上がる。だから競争を勝ち抜くことができて、中学入試に成功した…。

 

ここで新井さんは中央教育審議会の新素案に話題を転じます。

 

小中学校の学習指導要領改訂素案の中に含まれている、グローバリズムやAI時代に対応する教育方針やプログラムについて、それ以前にやるべきことがある、義務教育を終える頃には全員が教科書を読むことのできる読解力を身につける、そんなシンプルな教育目標こそが必要なのでは、と疑問を呈してして原稿を閉じています。

 

この記事は極めて短文で要点のみなので、新井さんが本当に言いたいことが上手く伝わらないかもしれません。

 

新井紀子さんの問題意識をまとめてみましょう。

 

「ロボットは東大に入れるか(東ロボ)」プロジェクトを開始後、彼女は東ロボくんが極めて国語問題を苦手としていることに注目した。

 

2016年のセンター模試で、200点中96点。偏差値49.7だったのだ。

 

東ロボくんの5科目8教科成績は偏差値57.1。

 

英語とならんで国語が苦手科目だとはっきりした。

 

同時に疑問が生まれる。なぜ東ロボくんよりも得点で劣る高校生がいるのだろう?

 

もしかして、彼らには「文章が読めていない」のではないだろうか?

 

ここが出発点で、「リーディングスキルテスト」(読解力テスト)による大規模な基礎読解力調査が始まったのです。
http://www.nii.ac.jp/userimg/press_20160726-1.pdf

 

その結果がはじめに紹介した記事となるのですが、新井さんが抱く危機意識は、まとめると次のようになります。

 

「キーワードを拾い、パターンに当てはめる受験テクニックはAIと同じ手法である」

 

「それは問題文が読める、書かれてある文章を理解できる、とは違うことである」

 

何やら、SEO対策に気を取られて、肝心の記事文章の内容には無頓着になってしまう、ネット上の索漠とした文章たちのことを言われているような気もします。

 

2030年には多くの仕事がAIに取って代わられる、と予想される

 

知らず知らずのうちにAIと同じパターン化で物事をこなしている義務教育卒業生は、恐ろしいことに、将来の大量失業者と同じ意味です。

 

そこで彼女はさまざまな含意を含むアフォリズムで、その講演を閉じます。

 

「資本主義社会が不可避に生む
格差と不平等は、
リテラシーをもつ市民による民主主義で
乗り越えられるはずだった」

 

この言葉をどのように捉えるか。立ちふさがる大きな壁と考えるか、それともより可能性と希望に満ちた未来への激烈な試練と捉えるか。

 

それによってわたしたちの生き方も大きく変わってくるように感じるのです。

 

「ロボットは東大に入れるか(東ロボ)」プロジェクトでの研究を経て、新井紀子さんは、統計的に回答を導くだけの東ロボくんは、東大には入れない、と結論づけます。

 

最高度の入試問題をAIがクリアする段階にはまだまだなく、そのためには、現在義務教育を実際に受けている若者たちが、ほんとうの意味での読解力を全員が身につけ、社会に出ていくという時代が生まれてはじめて、その萌芽が生まれるのだ、と新井紀子さんは言いたいのかもしれません。